1年で終わるつもりでいたが、、、
1. 今年のいかだレースは?
昨年の多摩川いかだレース(第22回狛江古代カップ)に友達4人で出場してから早いもので1年が経とうとしている。
昨年のレースは、78チーム中61位と満足のいく成績は残せなかったものの「やるだけやった感」があり、再びレースに参加してもあの日を超える感動は得られないだろうと、もう参加しないつもりでいた。
そんな中、多摩川いかだレース事務局から参加チーム募集のダイレクトメールが届く。
「参加資格 小学校4年生以上の健康で泳ぎのできる方(小学生の参加については、成人2人以上を含めたチームで構成すること)」
に目が留まり、家族参加の道があるかもしれないと考えてみる。今年4年生になったそうちゃんは誘えば出たがりそうだが、ほぼ全ての土日を部活(バスケ)に費やすなっちとゆっちの参加は期待できそうもなく、ハードルの高さを痛感するも、実現性のある魅力的なプランを思いつく。
『息子とおじいちゃん(実父)を誘い、親子3世代でレースに挑めば大きな感動が得られるかもしれない。』
親子3世代でゴールを目指して力を合わせる経験は一生もの記憶として深く胸に刻まれるだろうという思いは次第に確信に変わる。今年もいかだレースに出てみようかな?
2. チームメンバー募集
そんな訳で、もうすぐ77歳の誕生日をむかえるおじいちゃんに『今年のいかだレースに一緒に出ない?』と誘いをかけるも、「やるならお前の家族でやりなよ。」とつれない反応。だが、かつて自作ヨットを浜名湖に浮かべて豪遊していた、人呼んで「浜名湖の若大将(僕が勝手に呼んでいるだけ)」の心は揺れているに違いないはずだと再アタックのための作戦を練ることにした。
おじいちゃんを巻き込むには、「孫からのお願い的アプローチ」と「本気度を見せること」が有効ではないかと考え、まずはおじいちゃんから見て孫であるそうちゃんにいかだレースの魅力を大袈裟に伝えてやる気にさせ、2人で今年のいかだ案を考えてみる。
昨年川下からの強い向かい風にあおられ「いかだ押し川歩きレース」を強いられた苦い経験から、いかだ改良の方向性はなんとなく見えてはいたが、ぜひともそうちゃんのアイデアを盛り込もうと、
『去年パパ達のいかだレース見ていてどうだった?』
『じゃあ、どうすれば速くなると思う?』
と質問攻撃。そうちゃんの口から縦長というキーワードを引き出し、パソコンお絵描きソフトでタイヤチューブを縦に5つ並べて竹フレームでつないだ今年のいかだ案を親子共作で完成させる。
「僕達と一緒にいかだレースに出ませんか?」と見出しを付けてそうちゃんから手渡すと、おじいちゃんからは「考えておく」という返事。果たしてうまくいくかな?
数日後、おじいちゃんから「いかだやってみるよ」とうれしい回答。さらには、
「物置にしまってあるアルミ製のハシゴを使ってみたらどうだろう?」
という提案。良さそうな案ではあるが、いかだ作りに去年のように時間を割けない事情もあり、無難に去年と同じタイヤ&竹方式がいいのではないかと伝えると、
「ハシゴは軽くて強度があるから竹よりずっといいいかだができる。いかだ作りはたっぷり時間のある俺に任せておけ!」
と、なんとも頼もしい返事。これならいかだ作りは何とかなりそうだ。
数日後、おじいちゃん作成中のいかだがガレージ上空に吊るされているのを発見。スピードアップを狙い船体幅を細く絞ったのはいいが、簡単に横転してしまうのではないかとの疑念が膨らみ、ペットボトル3本で作った模型(いかだにみたてた空の2本のペットボトルの上に乗船者にみたてた水を入れたペットボトルを乗せて作成)をお風呂に浮かべて横転の危険性を検証。
『じゃあ水面に波を立ててみて!』
そうちゃんが波を立てるとペットボトルの船ははゴロンと反転、青ざめるそうちゃん。
「これまずいんじゃない?」
やはり本番前に現物確認が必要かもしれない。
4. レース事前準備(まっち編)
レースまであと2ヶ月、申し込み受付が開始された。おじいちゃんはいかだ制作以外には興味が無さそうなので、申込書類作りに着手する。
まずはメンバー欄におじいちゃん、そうちゃん、まっちの名前を記入。定員は5人なので、残りの2枠には、ゆっちとなっちの名前を記入。ゆっちは参加したがらず、なっちも多分部活と重なるから参加できないと言っているが、その時はその時だ。
次にチーム名を考える。「海老名高校自転車愛好会」という昨年のチーム名は今回にはそぐわないので、親子3世代の繋がりを表すようなチーム名を新たに考える。命名のヒントを求めてネットサーフィンをしていると、加山雄三のYOU TUBE動画に「オヤジの背中」というシングル曲を発見、これをそのままチーム名とする。
最後に「オヤジの背中」からイメージを膨らませ、チーム紹介コメント欄を埋め大会事務局に申込書を発送、今年も出場が決まった。
5. レース事前準備(そうちゃん編)
レース1ヶ月前となり事前説明会に参加。31というゼッケン番号と、5レース目のいちばん奥(川崎側)からのスタートが決定する。
親子3世代でレースに出るからには、そうちゃんにも何か準備を手伝ってもらいたい。今年もいかだの外観には期待できぬため、ゼッケン位綺麗に仕上げようと、一緒にチームゼッケン作りに取り掛かる。
パソコンお絵描きソフトの操作方法を伝授しつつ、5分間交替でマウスを握りデザインを考える。
『パパならこうするな。』
「それいいねぇ、その文字いただき!でも僕はその色は使わない。」
お互いの良い所を盗み合いながらプラッシュアップを重ねること約2時間、そうちゃんが4案、まっちが2案を作り上げる。おじいちゃん、おばあちゃんに審査をお願いすると、まさかのそうちゃんが1位、2位をダブルで獲得。まっち完全敗退。
どうしても納得がいかず、『よく考えてみてよ!こっちの方が絶対視認性がいいって!!このいかだが川を流れるのをイメージした白いラインもいいと思わない?』と、大人げなくも自分の案の良さをアピール、『まだ僕の2案は完成していない。最後は公平にお互い1案ずつに絞っての対決しよう!』と再対決を申し込んだ。
最後はそうちゃんが作った黄色ゼッケンと、まっちが作った青ゼッケンの一騎打ち。どちらも甲乙付けがたいという判決で、ゼッケン旗の表面をそうちゃん案、裏面をまっち案にすることでお互い納得、おそらく今年参加の87チーム中で最も気合いの入ったゼッケンが完成した。
6. 試運転
レースまであと2週間、セレナのルーフに座布団を敷いていかだを縛り付け、多摩川(いかだレースのゴール地点)に運んで試運転決行。
まずはおじいちゃんと2人でいかだに乗り込み、おじいちゃん考案の回転式釣り竿オール(水の抵抗が最も大きい角度=最も推進力を得られる角度にパドル面が自動回転、さらに釣り竿部分を延ばせばゆっくり漕いでも大きな推進力を得られる優れもの)を使い早朝の穏やかな水面に波紋を残しながら進む。タイヤの中に水が浸入してきて腰の上まで濡れてしまい戸惑うも、回転式釣り竿オールの効果に感心。ひと漕ぎで昨年の塵取りオールの5回分位の推進力が得られるこのオールは、体力で劣る我がチームの強力な武器となりそうだ。
水辺を大きくひと周りして無事生還。今度は4人で乗るつもりが、びしょ濡れの僕らを見たゆっちが「今日は私はいいや。」と乗船拒否(笑)。
おじいちゃんは、「このいかだは、水の中にはしごが入っている影響で直進性が高いので、たとえ3人で同じ側面にオール入れて漕いでもほとんどまっすぐに進むだろう」と言っていたが、長いオールの影響が予想以上に出るようで、蛇行を繰り返してまっすぐ進まない。本番までに改良が必要かもしれない。
最後はおじいちゃん、まっちが別々に乗り、いかだを急旋回させたり故意に転覆させたりして限界性能を確認する。おじいちゃんのいつになく楽しそうな笑顔が印象的であった。
7. レース前日
夕食に豚カツを食べて気合を入れたというおじいちゃんと、「直進性向上板追加」と「浸水対策」により性能の向上したかだをセレナのルーフに縛り付け、明日のレースについての最終打ち合わせをする。
なっちがやはり部活で参加できなくなったと伝えると、戦力ダウンを嘆くおじいちゃん。明日のレースで上位に食い込もうと準備を続けてきたおじいちゃんは、勝利への気概を欠いたまっち、ゆっち、そうちゃんの緩い態度が気になるらしく、
「明日のレースで同時スタートの8艇中トップでゴールできたらエントリー代の1万円は俺が払ってやるから明日は頑張ってくれよな!」
と、僕らの目の前に「にんじん」を吊るす荒治療(笑)!
夜の寝室で、1万円の皮算用トークに花を咲かせるゆっち、そうちゃんを横目に、「やるからにはトップを目指さなきゃ!」と意気込むおじいちゃんと、「楽しく完走できればいいや」という勝利への執着心を持たぬ自分との違いについて、(おじいちゃんの情熱の根源がどこにあるのか?自分や息子にこの熱い特性が引き継がれていないのは何故なのか、、、と)思いを巡らせる。
今回のいかだレースは、これまで素直に認められなかった父の優れた点〔(映画「風立ちぬ」の零戦開発者堀越次郎のように)性能の良い機体創りに知恵を絞る情熱や、(映画「バックトゥーザフューチャー」の科学者ドクのように)自らがマシンに乗り込み性能を立証しようとする行動力〕を認め、息子に伝えるチャンスなのかもしれない。
8. レース当日
朝7時に自宅を出発、1時間足らずでスタート地点の5本松に到着。いかだとおじいちゃん、そうちゃん、ゆっちを下ろし、ゴール横の指定駐車場にセレナを移動する。
歩いてスタート地点に戻ると、嬉しいことにアメさん、ジョー、ヤス、実姉夫婦が応援に来てくれている。一緒におしゃべりをしたり、同じ町田市から参加の「♯84鶴見川育成会」に貴重なアドバイスを貰ったりするうちに、あっという間にスタート時間となりスロープを下りいかだに乗り込む。ロープをたぐりいちばん奥のスタート位置へ横移動をしていると、タイヤの中に水が浸入してくる。
「あれ、おじいちゃん浸水対策バッチリだって言ってなかったっけ!(苦笑)」
隣でスタートを待つ#32の若者達が手にしている(オールとして使うであろう)重そうなシャベルに目が留まる。いかだの不安定さに慌てふためく彼らを眺めるうちに、「ひょっとすると今年はいい成績が残せるかもしれない」と自然と期待が膨らんでくる。第5レースの全8艇が並ぶと、僕らチームの紹介アナウンスが会場に流れだした。
『若い頃浜名湖に自作ヨットを浮かべて豪遊していたという76歳のおじいちゃんの知恵に、34歳年下の自分と67歳年下の息子の若い力を融合させ親子3代でゴールを目指します。時の流れのように悠々と流れるこの多摩川で、親から子、子から孫へと「冒険心」という心のバトンを繋ぎます。』
ピストルの合図でレーススタート、2013年夏の我家のメインイベントがはじまった。
『あれ、思うように進まないぞ(汗)!』
期待と裏腹に全くスタートダッシュできずに5艇に先行を許す。スタートと同時に飛び出して行く上位3艇はみるみる小さくなり、スタートから1分も経たぬうちに、どう頑張ろうとこの中でトップになるのは無理だと確信。
スピードが上がらないのは水浸入による重量増加が原因のようで、おじいちゃんの苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶと同時に、一気にテンションが落ちる、、、。
「あきらめたらそこで試合終了だよ!」
ここであきらめるようでは息子にバトンは繋げない。ここから疾風怒濤の復活劇がはじまる(浜名湖の若大将が作った細長いいかだは、一旦スピードに乗せさえすれば高速巡航を続けられる)と信じ、気を取り直してオールを漕ぐ。戦力として期待していなかったそうちゃん、ゆっちの想定外の頑張りもあり、徐々にいかだはペースアップ。もうすぐ前方のいかだに追い付くというところで雨不足で浅くなった川底に船底の直進性向上板が引っ掛かりガリガリと音を立てていかだは減速。そうちゃんを残した3人で、慌てて座礁したいかだから飛び降りる。
『まさか今年も川底を歩く屈辱を味わうなんて、、、。』
比較的水深が深そうな川崎市寄りに進路を取るといかだは再び水面を滑り出し、座礁した分の遅れを取り戻そうと再び4人で体育会系真剣モード。
川岸から声援を送ってくれる応援団に応えようとそうちゃんが立ち上がるといかだが左右に大きく揺れ、後ろのおじいちゃんが「立っちゃダメ!」と空かさず注意。すると、僕らのいかだに寄り添うように並走していた救護ボートからザワザワと声が聞こえる。
『どうやら僕らのいかだは徹底的にマークされているらしい(汗)』
多磨水道橋の陸橋からの声援にPOWERをもらいつつ、昨年同様次第に強くなる向かい風に立ち向かい、ひと漕ぎひと漕ぎオールを漕ぐうちにレースは後半戦へ。
水の浸入で重量が増し、水面まで着座高さが低くなった僕らのいかだは比較的風の影響を受けにくいようで、 風にあおられてもたつく数台のいかだをパス。俄然やる気を取り戻し、イキイキと掛け声をかけるおじいちゃん。
「次は左から抜くよ!」
前方の2艇の真ん中をスマートにすり抜けようとするが、2枚の直進性向上板が効いているようでなかなか曲がらない。しかしながら曲がりはじめると一気に旋回する特性があるようで、無駄な蛇行を繰り返してしまう。
船に乗る全員の動き(オールを左右どちらかに入れて漕いでいるかいるか)が見えるのは船尾に座る自分だけなので、先を見越してオールを左右必要な側に入れて調整を試みるも、前3人は思い思いのタイミングでオールを左右に持ち替えるため、なかなか蛇行が収まらない。小学校、中学校、職場、家という別々の環境で皆が最善を尽くしているつもりがなかなか上手く足並みが揃わない最近の我家の状態をそのまま現しているようで苦笑。蛇行の解決策に頭をひねるうちに、気付けばゴールはすぐ近くまで迫ってきた。
「最後に前のいかだ抜くよ!」
おじいちゃんの掛け声で、前を逃げるいかだを最後の力を振り絞って追い上げるも、船尾に追い付くのが精一杯でそのままゴールイン。
全力を出し切ったおじいちゃんが下船時に足を滑らすとそうちゃんが爆笑。みんなずぶ濡れでいい笑顔。考えていたものとは程遠いレース展開であったが、家族で一丸となりやり遂げられた達成感と、完走を喜んでくれる友達の喝采で胸が熱くなる。
やきそば、焼き鳥、かき氷を食べながら時間を潰し、再度顔を出してくれたヤスと一緒に表彰式。キリ番受賞を逃し、今年も賞は貰えないと諦めかけていると、
「コメント賞、ゼッケン31、オヤジの背中!」
と受賞のアナウンス。予想外の事態に混乱して逃げようとするそうちゃんを捕まえ、コメントが読み上げられる中ステージに上がる。なかなかできない親子で表彰を受ける経験に感謝感激!
帰宅後、ゆっち、おじいちゃん、部活帰りのなっちに52位/86艇という微妙な順位とコメント賞受賞を報告し、大量の賞品を分配。おじいちゃんは上位半分にすら食い込めなかった残念な結果にショックを受けているようであったが、自分的には唯一の家族チーム(乗船者全員が同姓のチーム)で力を合わせて結果を残せただけでも大満足。冒険心という心のバトンが繋げたかどうかは不明であるが、家族の頑張りが賞に繋がる充実感に酔える良いレースであった。
【狛江古代カップ2013 成績】
チーム名/メンバー: チーム オヤジの背中/おじいちゃん、まっち、ゆっち、そうちゃん
順位/参加台数 : 一般クラス52位/86艇
タイム/受賞 : 29分54秒/コメント賞
【2. 2013年いかだレース参戦 完】