タイトルSS.gif
4. 東海道サイクリング 編

 夢は大きく果てしなく 、、、




1. のんびりサイクリングのはずが、、、
 自転車愛好会イベント第2段として、境川・湘南海岸・目久尻川の神奈川県3大サイクリングロードに観光を織り交ぜた「イイダ牧場ソフトクリームサイクリング」を企画。様々な自転車に乗る友人5人でのんびりとサイクリングを楽しむつもりが天気は大雨。
止む無く翌週に延期し、都合のつけられるテル、アベチャン、まっちの3人で走るつもりが、今度は前日にテルから体調を崩して参加できそうもないとの連絡が入る。

『明日のサイクリング、アベチャンと2人か、、、』

アベチャンとは高校から長い付き合いを続けている言葉もいらない程の親しい仲だが、子供の頃からサッカーに打ち込み続けている寡黙なアスリートタイプの彼と藤沢のイイダ牧場で2人でソフトクリームを食べるというのはちょっと違うような気がした。

『明日2人だけだから箱根超えでもする?』と彼に思い付きでメールを送ると、「了解。行きましょう。」という返事が来た。

まだ2〜3回しか乗っていないロードレーサーでのいきなりの箱根越えに不安もあったが、気の知れた彼となら肩を張らずに楽しく走れそうだと、

『OK!明日は輪行袋持参で行ける所まで行きましょう(*^-^*)。』

と返信メールを送る。このメールが東海道サイクリングの始まりとなった。




2. 第1回東海道サイクリング(2008年6月7日)

■ 自宅〜箱根(芦ノ湖)区間
 6時半に都内の自宅を出発、8時半に海老名にあるかつての学び舎でアベチャンと合流。

「僕はどんなペースでも平気だから、まっち先導で好きなペースで走りなよ。」

と言ってくれるアベチャンの厚意に甘え、自分のペースで箱根を目指して走り出す。熟知しているはずの故郷である厚木の街で道に迷うという情けない出だしだったが、その後は快調に小田原厚木道路側道、県道61号線を走り抜け国道1号線を西に進路を取る。ロードレーサーのキツイ前傾姿勢を堪えつつ、ドロップハンドルやギア、ブレーキの使い方を研究しながら走っていると、信号待ちで後を走っていたアベチャンが話し掛けてきた。

「まっちはかなり重たいギアで走ってるようだけど、今から脚の筋肉酷使すると箱根で力出せなくなるよ。」

アベチャンは峠越えに備え、意識して軽いギアで脚力を温存して走っているようだ。お揃いで取り付けたサイクルメーターでケイデンス(1分間のペダル回転数)を計測してみると、まっちが50rmpなのに対しアベチャンは80rmp、1.5倍以上の差があるではないか。
アベチャンを見習い80rmpで走ろうとするが、脚力や持久力の違いのためマラソンをしているかのように呼吸が乱れてしまう。 60rmpあたりまでなら回転を上げても苦しくならないので、ケイデンス60rmpを下回らないように注意しながら脚への負担を少しだけ軽減して箱根を目指す。(帰宅後ケイデンスについて調べた所80rmp〜100rmpあたりが一般的で60rmpというのはかなり低い値であることが分かった。今後修行が必要のようだ。)


このまま国道1号線(東海道)を走り箱根駅伝のルートで外輪山を超えるつもりが、箱根が近づくにつれ車の渋滞が始まり走りづらくなってきた。箱根湯本駅手前の三枚橋を左に折れ、旧東海道(七曲り)ルートに予定を変更。車通りは少ないが傾斜が急なこちらの坂道を恐る恐る上り始める。

『あれ、もうこれ以上軽いギア無いじゃん(汗)。』

温泉宿の並ぶ小道を上り始めてすぐに1番軽いギアでもペダルが重たく走りづらいと感じる。予想以上の急勾配に戸惑いつつ脚に力を込めて走ってみるが、全く先の見えないこの急坂をこのまま上り続けるのが不安になってきた。 リタイヤだけは何としても避けたいと、こんな時のために密かに考えていた奥の手を使うしかないと判断。自転車を漕ぐ足を止めた。

『アベちゃ〜ん、自転車交換して〜。』

まっちのロードレーサーは中級者以上向けに軽量化されているため前スプロケットが大・中2枚なのに対し、アベチャンのクロスバイクは初心者向けに大・中・小の3枚が装備されている。この小スプロケットの軽いギアでなければ自転車での踏破は厳しそうだと泣きを入れると、彼もこの展開を予想していたようで快く応じてくれた。

気分新たに交換したクロスバイクで走り出す。やはりこちらの方がペダルが軽くて走りやすいが、軽さ故に全くスピードが出ない。まっちの歩く並のスピードに痺れを切らせたアベチャンが

「まっちの自転車ギア比が高くて、ゆっくり走りにくいから先行ってるね!」

と水を得た魚のようにスイスイと横を通り抜け、あっという間に視界から消えていった。
七曲がり看板 甘酒茶屋 小休止

15分位上り続けただろうか。「これより1.2kmの間7曲り」という地獄の一丁目の看板が見えてくる。1つ、2つ、と数を数えながらヘアピンコーナーを上るにつれ、この軽いギアでもペダルを回す脚に疲労が溜まり辛くなってきた。ヘアピンコーナーのイン側は(浮いた小石の影響もあり)前輪が空回りする程傾斜がキツく、コーナー毎にいちいちアウト側の緩い斜面に車線変更する「まっち流軟弱走法」で何とか凌ぐが、(7曲がりなのに)8つ目、9つ目のコーナーの出現に「歩いちゃおうか?」という気持ちが膨らんでくる。

『歩いちゃいけない決まりがある訳じゃないし、、、楽しむために自転車乗っているんだし、、、、』

と止まる言い訳しか考えられなくなっていると、前方から黄色い声援が聞こえた。

「頑張って!もうちょっと!もうちょっと!」

見上げると道端で天使が両手を上げて声援を掛けてくれているではないか。 消えかけていた「やる気の炎」が一気に激しく燃え上がるのを感じつつ、声の主の脇を小さくお辞儀をしながら通り過ぎる。 天使の正体は丁度自分の両親と同じ位のおば様であったが、疲れ過ぎて頭がおかしくなったのか、涙が出る程うれしくて顔のにやけが収まらない。優しい気持ちとの触れ合いに「アベチャンと合流するまで歩かない!」との決意が固まった。


いくつコーナーを曲がっただろう。甘酒茶屋の道端にアベチャンの姿を発見。 「もうここまで登れば箱根越えたも同然でしょ。」と言う彼と店内でもちを食べて小休止。交換していた自転車を元に戻して出発。13時頃遂に芦ノ湖に到着した。

芦ノ湖 箱根峠 遊楽爽憩

■ 芦ノ湖(箱根)〜新富士駅 区間
 湖畔でしばらく休憩をする。自転車を漕いでる時の尻の痛みは自転車を降りるとすぐに消えたが、疲れの溜まった脚はガクガクで普通に歩いているつもりが宙を歩いているようだ。体はボロボロだが心は達成感で満たされていた。箱根の涼しい風が心地良かった。

「これからどうする?」
『せっかく輪行袋持って来たんだから行ける所まで行こう!どうせなら新幹線で帰ろうよ!』

サドルに座ると再発する尻の痛みを堪えつつ、国道1号線を静岡側に向かう。箱根峠の上り坂は7曲がりとは比較にならずあっけなく終了、すぐに長い下り坂が始まった。とにかくひたすら、いつまでもどこまでも下りが続く。20分以上が過ぎたのではないだろうか。オートバイに乗るようにペダルを回さずに田舎の風景を楽しみながら走り続けるうちに沼津が近づいてきた。沼津バイパスは自転車通行不可のため通れず海岸沿いの道を選ぶ。脚の疲れは下り坂で吹き飛んでしまったようで快調なペダリングで富士市に入る。

コンビニで、新富士駅から新幹線に乗るか静岡駅を目指すかを迷っていると 「あら、東京から!」と驚く妖気で親切なコンビニのおばさんが新富士駅近くのスーパー銭湯「遊楽爽憩」を紹介してくれる。
今日の最終目的地を新富士駅に決め、「遊楽爽憩」でゆっくりと汗を流す。よくある普通のスーパー銭湯ではあるが、思いっきり体を動かした充実感のためどんな有名温泉よりも気持ち良い湯に感じた。「絶品、TVで紹介された静岡ラーメン」と大きく宣伝している割には何てことはない普通の醤油ラーメンを食べ、店員の静岡弁のイントネーションに「言葉が変わる所まで自力で走ってきた喜び」を感じながら店を後にし、新富士駅から初の新幹線輪行にチャレンジ。

2人で「ああでもない、こうでもない」と駅前で自転車をバラすうちに携帯で予約した新幹線の発車時刻が迫る。

『ヤバイ、あと5分で新幹線の発車時刻だよ!』

と、輪行袋の口が閉まらないまま改札を抜け発車間際の新幹線に飛び乗り「今度は自転車バラしたあの場所で自転車組み立ててさらに西を目指そう!」と夢のつづきに思いを馳せるうちに自宅最寄り駅に到着。駅前で再度自転車を組み上げ22時頃自宅に到着。自分のロードレーサーで箱根の山を越えられなかった点だけが大きな心残りだが、それ以外は大満足、充実感120%の楽しい旅だった。

【新富士〜浜松 走行データ】
走行距離:134km、走行時間:7時間27分、平均スピード:17.9km、MAXスピード:47.4km

新富士駅 自転車解体 新幹線



3. 自転車帰省の検討
 盆休みの1〜2週間前にゆっち、なっち、そうちゃんを一足先に三重の田舎に送り込み、まっちのみが新幹線で一旦都内に戻り、盆休みに再び三重に向かうのが我家の夏の習慣となっているが、この退屈な往復の行程に輪行サイクリングを組み込んでみるのはどうだろう?

帰省に輪行サイクリングを組み込むメリット

1.(帰省と兼ねるので)時間の捻出が容易。
2.(帰省と兼ねるので)費用の捻出が容易。
3.(家族は帰省中のため)心置きなくサイクリングが楽しめる。
4.(帰省前に自分の趣味に没頭でき)帰省中家族に優しくできそう。

うーん、いいことばっかり。「これぞ、所帯持ちの自分にうってつけ!行くしかないでしょ!」と、先日新富士までを一緒に走ったアベチャンに日程調整できないかを相談すると、丁度盆休みの始まる8月10日にサッカーの試合で名古屋に行く予定があるそうで、その前日の8月9日に新富士から西を目指して一緒に走ることに決定。でも良く考えてみたら1つ問題が、

『暑いのすごく苦手なんですが、、、(笑)』



4. 第2回東海道サイクリング(2008年8月9日)

■ 新富士〜焼津港 区間
 朝5時半に自宅を出発。海老名駅でアベチャンと合流し小田原駅で新幹線に乗り換え7時37分に新富士駅に到着。2カ月前に自転車をばらした場所で輪行袋から自転車を取り出し組み立てる。朝の陽差しと止めどなく吹き出す汗が真夏のドラマの始まりを盛り上げる。
地図を見ながら今日の最終目的地、浜松駅近くの24時間営業健康ランド「天王温泉お〜風る」までのだいたいのルートを決め、まずは日本3大松原の1つ「三保の松原」を目指して走り出す。
吹き抜ける風が体の熱を冷ましてくれるようで、停まっているよりも幾分涼しい。昼の灼熱地獄の前に少しでも距離を伸ばそうと休憩を取らずに走り続けるが、自転車走行が禁止されている橋やバイパスが多く、引き返したり迂回路を通ったりに時間を費やしてしまい、清水の三保の松原への到着は予定より1時間以上も遅い11時過ぎとなってしまった。

新富士駅再び 三保の松原 清水の海

樹齢650年の古松等を30分程観光の後、松原の中のエンデューロコースのようなサイクリングロードを松の枝をかわしながら通り清水を後にする。久能山いちごラインと並走するどこまでも同じような景色の続く海沿いの太平洋自転車道を走っていると、自転車道と防波堤が交わり道幅が広く開けた。

前々から試してみたかったトップスピードバトルをするのに丁度良さそうだと思い、

「付いて来れるかい?」

とアベチャンを挑発して抜き、ありったけの力で逃げる。この平坦な道なら自転車の性能の差で逃げ切れると思ったが甘かった。そういうことかと体を低く構えて追いかけてくるアベチャンにあっという間に追い付かれたと思うとそのままジリジリと引き離されてしまう。自転車という乗り物もオートバイと同じで乗る人のポテンシャルの分しか性能を発揮してくれないと分かった気がした。


その後も変わり映えのしない海沿いの自転車道をひたすら走る。気温の上昇と海岸の強い日差しにより徐々に士気が低下。水をかぶりながら走るが思うようにスピードが上がらなくなってきた。

『やっと大井川に出たよ!』

と思った川はまだ手前の安部川。静岡の広さ(自転車旅行の厳しさ)を痛感。

もう正午を回っていたがここで昼飯を食べてしまっては浜松まで走るという今回のミッション達成が非常に厳しくなってしまう。最低でも昼飯は焼津で食べたいと焼津漁港の旨い魚介類をイメージしながら腹を空かせて走り続けていると、あと数キロの所でまさかの峠道が行く手を阻む。

『えっ、マジかよ!』

海上にせり出した橋や、上り坂のトンネル、右へ左へ曲がる上り坂の続く大崩海岸の峠道をフラフラになっりながら上り、13時半頃ようやく焼津港に到着。安くて旨いと評判の与作鮨で3色丼(マグロは旨いがイカはちょっと硬かった/630円)を食べ元気復活!

久能山いちごライン脇 大崩海岸 与作鮨


■ 焼津港〜島田(蓬莱橋)〜浜松(天王温泉お〜風る) 区間
 焼津藤枝線等で大井川に出て川沿いのサイクリングロードを上流へ向かい、世界一の長さを誇る木造歩道橋とギネス認定された「蓬莱橋」を観光。900mの橋を自転車で往復していると、遠くから明らかに雨を降らせているだろう雲が近づいてくる。

『これはヤバイ!』

と向かいにあるショッピングモールに逃げ込み間一髪夕立ちをかわす。ラーメンや久能山いちごクレープを食べて時間を潰すが17時を過ぎてもが雨が止まない。暗くなる前にこの先の掛川に通じる金谷の峠を越えるにはもう出発するしかないと覚悟を決めて雨の中を走り出す。雨の峠道は走りづらいが暑さは半減、見下ろす大井川や島田市街の美しい景色を見ながら順調に峠を上り切る。下りでは濡れた路面にビビりつつ最高時速の50.8キロを記録。

掛川に入る頃には雨は止んでいた。観光予定の掛川城を通り過ぎてしまうが戻る元気も無くそのまま走行。そのうちにやたらと警官や浴衣が目に付くようになりコンビニで停車。アベチャンに

『きっと花火大会でもあるんだよ!』

と話しかけた直後、爆音と共に目の前に花火が上がりしばし鑑賞。

蓬莱橋 三保の松原 袋井花火大会

袋井花火大会の人ごみを避けながらひたすら西を目指す。自転車走行禁止の太田川の橋の迂回に苦しめられつつ、20時半頃天竜川にかかる大橋に到着。 下流遠州灘側3ヵ所で花火大会が行われているようで次々と花火が上がる。ここまで来ればもうゴールに着いたようなものだと、幅広い歩道をアベチャンと並んで互いの健闘を称えつつゆっくりと渡る。

「焼津で昼飯喰ってる時は正直ここまで辿り着けないと思ってたけどよくここまで来たもんだ。俺達よく頑張ったよ。」

暑い中走ってきたご褒美のように上がる花火を眺めながら(某マラソン選手のように)自分達で自分達を褒める。夜の涼しくなった風が印象的な最高に気持の良いひと時であった。

浜松イオン内でデミグラスハンバーグ定食を食べ、パン屋の半額セールで朝飯を買い22時半頃宿泊場所である「天王温泉お〜風る」に到着。待ちに待った風呂で今日1日の汗を流し日付が変わる頃休憩室の畳で眠りについた。


■浜松(天王温泉お〜風る)〜三重県北勢町(実家)区間
 早朝5時に起床。入浴料金+深夜料金の2400円を支払い出発。浜松駅発6時32分の始発の新幹線で名古屋へ向かう。今日の9時から春日井でサッカーの試合があるという疲れ知らずのアベチャンと名古屋駅で別れ、近鉄線に乗り換え桑名駅で下車。自転車を組み立て30キロ程離れた子供達が待つ嫁さんの実家に10時頃到着。

家族で過ごすのはとても楽しことだが、途切れることなくそれが続くと時にその楽しさを忘れてしまう。
たまにこうして家族と離れて独身時代のように思い切り気分転換をすることは、家族が掛け替えの無い存在であるということを再確認させてくれる。こうしてたまに心と体をリセットすることは、良好な家族関係を築く上でとても重要なことなのかもしれない。

実家で出迎えてくれた久しぶりに見る子供達が以前よりも愛らしく見えた。
子供のように遊び倒してきた父親の姿は子供達の目にどう映ったのだろうか?


【走行データ(新富士〜お風る(初日のみ))】
走行距離:147.5km、走行時間:8時間14分、平均スピード:18.3km、MAXスピード:50.8km

天王温泉お〜風る 浜松駅 袋井花火大会

【To be continued.】


1