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1. 2012年いかだレース編

何か新しい1歩を踏み出してみたいが、、、


1. いかだ川下り計画始動

 2011年の夏、真夜中何気なくTVを点けると、数日前に行われていたという「いかだ川下りレース」の特番をやっていた。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

『そう言えばかつて高校の卒業記念に相模川で川下りをやるって話がでたよなぁ。あのときはどうしてあきらめちゃったんだっけ?』かつての記憶を掘り起こしながら、工夫を凝らした数々の自作いかだが川を下る様子をぼんやりと眺めるうちに会場が多摩川であると気付く。そしてこのイベントが「狛江古代カップ」と呼ばれ、高校時代からの親友ジョーが数年前から住んでいる狛江市の主催で行われていると分かると心の中がにわかに騒ぎだす。

『来年このイベントに参加してみようか?』

かつて川下りの話は高校卒業前の慌ただしさに別のプロジェクトへと置き換えられてしまったが、あれから20年、今こそ実現する絶好のチャンスに思え、付き合いの続く当時のメンバーにメールを送る。数分後、テルとゴッチャンから『ぜひやりましょう!』と期待通りの着信。こうして20年越しにいかだプロジェクトはスタートした。


2. 事前準備
  仲間との打ち合わせの前に、ネットでいかだの作り方を調べてみる。
「流体中の物体は、その物体が押しのけた流体の重さと同じ大きさの浮力を受ける」というアルキメデスの原理によると、4人乗りのいかだ(乗船者の体重といかだの合計重量300キロ)を作るには、最低でも300Lの体積(水中に沈む部分の体積が300L)が必要となるようだ。300Lが実際どれ程の大きさなのか、ペットボトル・塩ビパイプ・発砲スチロールの場合で考えてみた。

・3Lのペットボトルだと100本必要(300÷3=100)
・直径10センチの塩ビパイプだと約38m(3.8mが10本)必要
〔0.3÷(0.05×0.05×3.14)=38.2〕
・厚さ10センチの発砲スチロールだと1m×3mの大きさが必要(0.3÷0.1=3)

これだけのサイズとなると一夜漬けで完成させるのはおそらく不可能、きちんと計画を練らねばちゃんとしたいかだは作れなさそうだ。さらには乗用車でいかだやその材料の運搬ができない可能性も高く、レンタカーを借りるなど対策が必要になってくるかもしれない。

『なんだか思ったよりも大変そうだぞ、、、』

家庭や仕事に忙しい仲間に思い付きで声を掛けてしまった後悔が一瞬頭をよぎるが、少し遅れてこの困難をみんなで乗り越えてみたい気持ちが膨らんでくる。だって障害が大きければ大きい程、実現できた時の喜びも大きくなるものだから。

 



3. 第1回いかだ会議 前編(いかだの基本方針決定)

 テルと東京シティーサイクリングに参加した帰り道、この日40歳の誕生日を迎えるジョーの家に寄り第1回いかだ会議を開催。

「え〜いかだ作るの大変じゃん、本当にやるの〜」

と気が乗らなそうなジョーを、『40代を充実させる第1歩としてぜひやろうじゃないか!』と誕生日プレゼントをちらつかせながら強引に説得。タイムレース部門や企画部門の受賞を目指すとなるとそれなりの資金や時間が必要となり確かに大変かもしれないが、完走を目的にすれば手軽にこれまで感じたことのないドキドキが味わえるはずだと、「1人1万円の予算内でロークオリティーのいかだを作り完走する」という方針での参戦が決まった。

今日のメンバー4人(テル、ゴッチャン、ジョー、まっち)から集めた4万円から大会事務局に支払うエントリー費用1万円を差し引くと残りは3万円。ここからいかだ製作費用に加えレンタカー代まで捻出するのはいかにも無理があるので、乗用車で運べるいかだをどうにか作れないかと4人の知恵を出し合い、「灯油用ポリタンク4個で乗用車で運べるサイズのいかだユニットを各自1個づつ作り、レース当日の朝そのユニットを4個持ち寄り繋ぎ合わせよう」と話がまとまりかけるが、パソコンを持ち出しネット調査をしていたジョーが「ポリタンクいかだよりタイヤチューブいかだの方が絶対いい!」反論。ポリタンク加工の手間や保管方法を考えると確かにその通りかもしれないとタイヤチューブいかだでいくことに決定!



4. 第1回いかだ会議 後編(最大の障害は、、、)
 ジョー家の近所にホームセンターがあるそうなので、早速部材調査に出掛けようとしていると、外出していたジョーの嫁さんが帰ってきた。
『お邪魔してま〜す。今日はジョーの誕生日なので祝いに来ました〜。』と挨拶を交わすとジョーの思いもよらぬつぶやき。

「そうだ、俺いかだレースの件嫁さん説得する自信無いからまっちに直接説得してもらおう!」

呆気に取られていると、ジョーに呼ばれてジョーの奥様がいつもの明るい笑顔でやってきた。「まっち君話って何?」
自分の嫁の説得に四苦八苦しているというのに他人の奥様を上手に説得できるはずもなくしどろもどろ(笑)。今回のプロジェクト、実はいかだ作りより家族の説得の方が難しいのかもしれない、、、。

ホームセンターに向かう車の中で、この4人でいちばんの愛妻家ゴッチャンにどのように奥様を説得したのかを聞くと笑える回答。

「うちも説得するの大変だったよ〜、いかだ作りに使うお金や時間があるんだったら、東北に震災ボランティアに行ってこいって言われちゃってさー、、、、」

正論にタジタジになるゴッチャンの姿が目に浮かび大爆笑。確かにゴッチャンの奥様の意見は正しいが、僕が東北の震災を経て強く難じたのは『やりたい事は先延ばしにせずにやれるうちにやる』ということ。今生かされている時間を悔い無く大切に生きることこそ残された自分が取るべき行動だと信じ、このまま突き進むとしよう。


5. タイヤチューブの調達

 上記アルキメデスの原理から算出すると、4人乗りのいかだを作るには18インチなら4本、16インチなら6本のタイヤチューブが必要のようだ。使用済み廃チューブを安価で手に入れようとオートバックスやタイヤ専門店、解体屋などを回るが、最近の車はフォークリフト等の特殊車両を除くほとんどがチューブレスタイヤだそうで、廃チューブどころか新品チューブですら見つけられない。ネットでも探してみるが、中古の欲しいサイズを欲しい本数となるとなかなか見つけられず、開始早々いかだ作りは暗礁に乗り上げてしまう。

約1ヶ月が経過、ヤフーオークションに『トラック用16インチタイヤ(中古品)6本セット』の出品を発見。だがこの商品、オークション開始価格が8980円(即決価格9840円)と高額、しかもバルブ部分が酷く錆ていたり、パンク修理の跡があったりと状態は劣悪。買ったはいいが使えなかった場合のその後の厳しいやりくりを考えると入札に踏み切れない。そうこうするうちに他の入札者が現れテルに相談すると頼もしいこんな返事。

「もし使えなくても金は俺が何とかするから即決価格で入札しちゃって!」

男気ある彼の発言、自分に勝るとも劣らない(いかだレースに懸ける)彼の情熱に胸が熱くなるのを感じながら即決価格で入札をした。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

数日後、出品者からタイヤチューブが届き、子供達と空気を入れるがこれがかなりの重労働。3人で汗だくになりながら20分程膨らますが、どこで止めれば良いかの判断が下せない。
今ならパンクしてもまだ色々手が打てるので、とにかく限界まで膨らませてみようと直径110センチまで膨らませ、恐る恐る1人ずつ乗ってみる。3人で乗っても何とか大丈夫。バルブとチューブの接合部やパンク修理部の強度に不安が残るがこれなら何とか使えそうだ。


6. フレームの調達

 次はフレームの調達だ。タイヤチューブの上に格子状のフレームを載せ、その上に床材を敷くのが良さそうだが、できるだけ使用部品を少なくしようとフレームに最低限の床の機能を持たせたA案を作成、これを車に積めるサイズに分割したB案に改良しホームセンターに木材を買いに行く。


ロープやオール、旗なども用意せねばならぬため、フレーム予算を1万円以下と決め店内の木材を物色する。しかし、木材は1820mm(6尺=1間)ベースで売られているため丁度良い長さが選べなかったり、安価な木材は強度に不安があったりして納得のいく木材は1万円では全く揃えられない。足場用鉄パイプやものほし竿等他の材料も検討するが、「これだ!」という材料を見つけられずに何も買わずに店を後にした。

何か良い手はないかと考えるうちに、自宅裏山に雑草のように生えている竹を使うのが良さそうに思えてくる。汗水垂らして自分達で山から切り出した竹でいかだを組むのが「いかだ作り」のイメージにぴったりだと感じ、下記設計図を作成、竹狩りの日を向かえた。

手伝いに来てくれたテルファミリーと裏山に入り、車に積める限界寸法である3.4m×2本と後部座席に積める2m×3本を3時間程で切り出し、子供達が膨らませてくれたタイヤチューブの上に竹を並べてみる。なんとなく先が見えてきたぞ。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川
いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

 


7. 新たな行動を起こす価値

 半年程前の「中学同窓会」と、昨年末の「エコーズ復活ライブ」で感じたことをいかだ作りに絡めて書いておこうと思う。

 

■その1:中学同窓会
 中学同期でプチ同窓会をやる話が浮上。いかだレースに出る高校同期とは学生時代から継続的な繋がりがあるものの、中学同期とは卒業以来ほとんど会っておらずためらう気持ちもあったが40歳の記念に顔を出すことにした。

「うぉー久しぶり!お前オヤジになったなぁ、俺も同じ位老けたけど(笑)!」

再会する同窓生十数名のほとんどが卒業以来四半世紀ぶりであり、流れた月日の長さに始めのうちは半数が誰だか判らない。『ホント久しぶり!確か部活はアレだったよね。』なんて話しを振りつつ記憶を掘り起こすうちに、どうにか全員の顔と名前が一致。みんな角が取れて穏やかな大人になっており、少年時代のバカ話やかつての健気な恋愛トークなどに花を咲かせるうちにあっという間に1次会は終了。1人も欠けずに行われた2次会も終始和やかな雰囲気で、「次回は半年後に倍の人数を集めてまたやろう!」なんて話でお開きとなった。

この再会をきっかけに中学同期の交流が盛んになると思われたが、実際はその正反対。それまで賑わっていた同期掲示板への書き込みはプツリと途絶え、数ヶ月後に掲示板は消滅、半年後に行われるはずだった次回同窓会が開催されることは無かった。これは一体どういうことなのだろうか?

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 仲間の関係が続かなかったのは、きっとそれぞれが今回の同窓会で過去の記憶をひと通り話して満足してしまった(自分の歩いてきた道を振り返り、過去の清算を完了させた)のが原因ではなかろうか。

例えかつての関係がどんなに素晴らしかったとしても、思い出話を壊れたテープレコーダーのように何度も繰り返すだけではその発展性の無さに皆嫌気が差し、再び人が離れていくのも時間の問題となる。

その先に明るい未来や自己の成長が見込めてこそ(ワクワク感が生まれ)人は繋がり会う〔=明るい未来や自己の成長が見込めなくなると人は去る〕というのは、バンザイダートの繁栄と衰退に感じたことであるが、継続的な関係を築くにはきっと『未来を見据え新たな足跡を刻むこと』が必要なのだろう。

そんな風に考えるうちに、高校同期との近年の前向きな行動(自転車愛好会や読書愛好会設立や、今回のいかだレースへの挑戦など)が、僕らの交友関係を維持発展させる上で、とても意味のあるものに思えてきた。

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『まてよ、これって、夫婦や家族関係にも共通して言えるんじゃないの?』

どんなに劇的な出会いにより結ばれた夫婦であっても、血の繋がりのある親子であっても、ただそれだけではその後の永い年月強い結束を維持し続けるのはきっと難しい。右肩上がりの時代に業務の領域を拡大し続けてこそ終身雇用が維持できたように、夫婦や親子で楽しめる領域を拡大し続けてこそ、良好な夫婦関係、家族関係が維持できるのだろう。

 

■その2:エコーズ再結成ライブ 編
 高校時代夢中になって聴いていたロックバンド「エコーズ」が年末に再結成ライブを行うという情報を入手。20歳の時に日比谷野外音楽堂での解散ライブ、30歳の時に武道館での一夜限りの復活ライブを一緒に観たテル・ゴッチャンを誘い、今回も前回から10年ぶりの人生の節目のタイミングでエコーズライブに行くことにした。

今回のライブを、失いつつあるハングリー精神やイキイキとした気持ちを取り戻すきっかけにしようと、ライブ数週間前からエコーズのアルバムや辻仁成の「オールナイト日本」のエアチェックテープを聴きまくる。そして、ライブ当日は高校時代Walkin' on the Wildside tourを観に渋谷公会堂に行った時のようなドキドキを胸に、渋谷公会堂の目と鼻の先にあるSHIBUYA-AXでテルとゴッチャンと合流。照明が落とされJACK(CD)のイントロが流れる中を伝説の(?)メンバー4人がステージに集結、ライブが始まった。

「あれれ、なんだかエコーズらしくないぞ、、、」
アコースティックアレンジの「JACK」、レゲエ風アレンジの「ZOO」、エスニック風アレンジの「RAINBOW」、原発風刺ソングに産まれ変わった「Hello Again」など、CDとは趣の異なるナンバーが続くが、聞き慣れたCDを忠実に再現した80年代のサウンドを聴きたい自分にとっては全くの期待外れ。
「世界が変わっただけで俺たちは変わっていない!」なんて格好いいコト言う割には歌や演奏の衰えは明らかで、アレンジ変更が演奏技術や歌唱力の低下をごまかすためではないかと疑いの目で見てしまう。
この日20年ぶりに発表されたラップ調の新曲、「そこに愛があるなら今すぐ手をつなげ」も、メッセージ色を強くするあまりにロックの枠を超越してしまったようで、その恥ずかしい感じの仕上がりに素直に喜べない。さらには、STELLA、GENTLE LAND、Foolish Game、LOVIN' YOUなど思い入れのある往年のシングルも聴けず終い。不完全燃焼のまま会場を後にした。

帰宅後、辻仁成の今回のライブに対する意気込み「同窓会には絶対にしない!」をtuitterで発見したのをきっかけに、「今日も精一杯生きたろう!」ではじまる彼の日々のつぶやきを片っ端から読んでみる。昔と同じように文化の創造に情熱を注ぐ姿勢を目の当たりにするうちに、(ライブでの表層的な部分は20年前のようではなかったが)無尽蔵の創造力を武器に周りに媚びずに信じる道を突き進む根本的な部分は昔と変わっていない。いや、積み重ねてきた実績が自信や最高の笑顔となってにじみ出る分だけ昔よりバージョンアップしていたように思え、『もしかすると、昔と全く同じ曲を聴きたいと考える自分の思考回路がとても後ろ向きなのかも、、、』と考えるようになった。

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かつてミュージシャンだった辻仁成が小説家になって約20年。この間彼が上梓したのは小説だけでも50冊以上。エッセイや詩集、写真集が発売されたかと思うと、脚本を手掛けたTVドラマが放映されたり、監督した映画が上映されたりと、活躍の場は拡がるばかり。最近では大学教授も引き受けているようで、年齢と共にそれに見合う世界で表現を続ける彼を見ていると、学生時代に目指していたのとほとんど変わらない目標を未だに目指している自分の生き方が疑問に思えてくる。
いつまでも若者と同じ土俵で不毛な戦いを続けるのではなく、これまでの経験や知恵を駆使して何かを作り上げるとか、かわいい子供や嫁と思いっ切り遊ぶなど、これまではできなかったが40代になりできるようになったことに全力を注いでいこう!と決意を新たにするライブであった。


8. 改良案検討とオール作成(2011年11月27日)

 いかだ作りの経緯を知った(自作ヨットで浜名湖を清遊していた船作りに一家言ありそうな)まっちの父親が下図のようにロープを使わずにいかだを組むアイデアを考えてくれた。

『この方法ならロープ要らずで(回ってしまわない)直進性のあるいかだが組めるよ。タイヤが椅子がわりになるし、もしかすると舳先効果でスピードも出やすくなるかもしれない。』
との浜名湖の若大将の言葉はいい事ずくめで、早速試してみることにした。

いかだTV準備 多摩川

並べたタイヤチューブに互い違いに竹を通したら、あとはチューブを膨らますだけ。部屋に籠もり電子ゲームばかりしている子供達を呼び出して空気入れを手伝わせること約15分、簡単にしかもがっちりといかだが組み上がるが、竹を挟み込んだ分だけチューブが膨らみずらくなり、水面下に沈む部分のチューブの容積を1本当たり50L以上確保するのが難しくなると判明。地道にロープで縛る方法を採ると決めた。

いかだTV準備 多摩川

引き続きオール作りに取り掛かる。フレームと同じように裏山で竹を切り出してオールに加工するつもりでいたが、昼飯ついでにホームセンターや100円ショップを回るうちに、もっと簡単に作る方法がありそうに思えてくる。「ちりとり(ほうき着脱タイプ)/100円」と「おそうじモップ(雑巾取付タイプ)/100円」を組み合わせれば軽量オールが作れそうだとこれらを購入、ちりとりとモップの柄を針金で縛り付けオールを完成させた、
その後は暗くなるまで公園で子供達とサッカーや泥警で遊ぶ。趣味と育児の両立ができたいい週末であった。


9. いかだ試運転(2011年12月29日)

 春先暖かくなったらいかだを試しに川に浮かべるつもりでいたが、いかだメンバー全員で集まれる機会はそう多くはないため、毎年必ず顔を合わせる「年末行事」でいかだ試運転をやろうと提案。「川に落ちたら冷たいんじゃない?」という意見もあったが、『正月に海で泳ぐ人もいる位だからきっと大丈夫』と皆を説得し、例年通り12月29日に学生時代を過ごした厚木に集合。

フットサルを楽しんだ後、いかだ試運転ができる場所を探して恩祖川や玉川沿いに車を走らせる。七沢温泉に程近い「あひるの里」に場所を決め、まずは隣接するおしゃれなレストラン「メルシィ商店」で、ひき肉のたっぷり入ったキーマカレーやフランス定番惣菜であるキッシュのランチで腹ごしらえ。気さくなオーナーさんと地元トークで打ち解け、「ちょっとあひるの里でやりたいことがあるのでしばらく車置かせてください」と店を後にする。不審がるメルシィ商店オーナーさんが見守る中、あひる不在のあひるの里でいかだを組み立て試運転の開始。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

組み上がったいかだを水面に浮かべるが、これだけでは浮力や強度がどれ位あるのか分からない。『じゃあ順番にいかだに乗ってみようか!』と切り出すと、いつになく謙虚に譲り合う仲間達。寒空の中靴を脱いだりジャージに着替えたりして準備が整った者からひとりずつ乗船、4人乗っても沈まない浮力がある確認ができた。さらに自作オールも試してみようと1本ずつ手渡しているうちに、いかだに乗った4人から笑顔が消える。

「これヤバイ!」『戻れ、戻れ、戻れ!』「沈む、沈む、沈む!」

4人の体重を6つのタイヤにうまく分散させないとバランスが取れないようで、タイヤの上に乗っていた竹がずれ落ちたかと思うと、いかだが片側から崩れ始める。間一髪のところで何とか全員が川に落ちずに陸に生還。崩れたいかだを一旦陸に引き上げ、ロープの固定場所を増やしたりチューブにエアーを補充したりして剛性アップをはかり再び着水。今度はかなり安定しているようで、オールを使い何とか対岸まで到達することができた。
メルシィ商店オーナーさんに「レース頑張ってくださいね!」と激励の言葉を頂きあひるの里を後にする。体が冷え切った分だけ七沢温泉の古宿「玉川館」の温泉が心地良かった。

いかだTV準備 多摩川


10. 事前説明会&最終いかだ会議(2012年6月20・23日)

 年末の凍てつく中でのいかだ試運転から約半年が経過、狛江市中央公民館で行われる狛江古代カップ事前説明会に参加してきた。
代表者の挨拶にはじまり、今回で22回目の歴史のある当イベントの沿革やいかだの規定、スケジュール、注意事項などの事細かい説明が1時間以上続き、最後に出廷順をクジ引きで決める。我がチーム「E高自転車愛好会ダンクラーズ」は10時20分スタートの第3レースへの出廷が決定。まだ先だと思っていたレース日程がすぐそこまで来ていると気付き、「やれることは全てやってからレースに挑もう!」と週末最後にもう1度集まることにした。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

今回の最終いかだ会議では、試運転で分かった問題点「強度不足」「座席の確保」「船体の装飾」の3点を解決しようと力を集結。
「強度不足」については竹フレームの端部10カ所に穴を開け、竹とタイヤを紐で結んで解決。
「座席の確保」については100円ショップで買ったプラスチック製の小さな椅子を竹フレーム交差部に縛り付けてみるが、いざ座ってみると座面がぐらつき尻が滑って使い物にならなかったため、横フレームを2本追加し座席にすることで解決。
「船体の装飾」についてはエコーズ復活ライブフラッグに似た巨大旗を作る予定だったが、僕らの柔ないかだに風圧に堪えうる巨大旗を掲げるのは無理と判断、規定最小限のA3サイズのタイム計測用チーム名旗のみを作成。

いかだTV準備   多摩川

不具合にぶつかっては皆で意見を出し合う検討を重ねれば重ねる程にいかだの完成度が上がり、レースへの期待や士気が高まっていく。
なけなしのお小遣いや貴重な時間を費やし、家族に白い目で見られながらも「いかだ完走」という1つの目標に向かい力を合わせた経験は、2012年の夏を彩る一生ものの記憶として胸に刻まれることだろう。


11. レース前日(2012年7月14日)

 レース前日の晩にスタート地点に集まり一夜漬けでいかだを組み立てる予定だったが、「近隣から苦情が出ると大会事務局に迷惑がかかるから夜中の作業は控えた方がいい」と言う(学生時代散々社会に迷惑を掛けていた彼らしからぬ)テルの意見により、前日にいかだを組み立てることに。まっち家近くのガソリンスタンドに集合し、給油がてらコンプレッサーでタイヤ6個を一気に膨らませ、2時間程でいかだを完成させる。あとはコイツをスタート地点までどう運ぶかだ。

今日準備に来れなかったゴッチャンが明朝レンタカー屋でトラックを借りて来てくれると言うが、これでは予算をオーバーしてしまい「1人1万円の予算で完走を目指す」という当初宣言した方針が崩れてしまう。何か良い運搬方法は無いだろうか?

試しにセレナの天井にいかだを乗せてみる。車幅を大きくはみ出るものの、前列ドアと後部ドアにロープを通し竹フレームと結ぶといかだはしっかり天井に固定できた。『降ろすの面倒だしこれでいいじゃん!』と言うテルとジョーに押し切られ、この方法で運ぶことに決定、これで全ての準備が整った。

いかだTV準備 いかだTV競技中 多摩川

その晩、眠れずに1年に及ぶいかだ完成までの道のりを思い返しながら闘志を燃やしていると、寝ていると思っていたなっちが「荷物持ちでもカメラマンでも何でもやるから私もいかだに連れて行って!」と予想外の発言。『明日はみんなの家族も来ないから来てもきっとつまらないよ!』と忠告するも、「パパ達のいかだが川に浮かぶのをぜひ見たい」と引き下がらない。
メンバーに相談メールを送ると「せっかくだから連れて来なよ」「うちも家族誘ってみます」と好意的な反応。将来に希望を持ちにくい今の時代、「大人が思い切り楽しむ姿を子供に見せるのは良いことだろう」と、なっちを連れて行くことに決めた。


12. いかだレース当日(2012年7月15日)

 早朝4時、いかだを積んだセレナにゴッチャンと眠そうななっちを乗せて自宅を出発。途中でジョーと合流し、搬入場所である多摩川五本松近くにいかだを下ろす。その後、ジョナサンでテルと応援に来てくれた狛江在住のヤスと合流、レースの打ち合わせや雑談をしながら朝飯を食べる。
このメンバーでファミレスで朝食というのも妙だが、何より隣になっちがいるのが落ち着かない。そんな僕の様子に気付いてか、テルがなっちに「パパは学生時代はめちゃくちゃ成績優秀、人気者だったんだよ」と現実とは正反対の冗談トーク。「そうそう、明るくてスポーツ万能、信頼も厚く、、、」と面白がって続ける仲間の言葉になっちは疑いのまなざし(笑)。

いかだレース写真 いかだレース写真 いかだレース写真

五本松に移動し準備を済ませ、思考を凝らした77台のいかだを見て回っていると、ゆっち(妻)から携帯に「そうちゃんとそちらに向かっています。」と着信あり。驚いたことにテルの家族3人、ジョーの家族3人もこちらに向かっているらしく、ヤスを団長に総勢10名の即席家族応援団が結成される。今日初めてこのいかだを見る奥様方からの「頑張って作ったのは認めるけどうちのいかだが1番貧相だねぇ!」という率直な感想に、『僕らのいかだは外観ではなく性能重視なんだよ。』、『(隣の東急ハンズ渋谷店や狛江商工会のいかだと比べると確かに貧相だけど、)うちは初出場だしスポンサーもいないからしょうがない。』などと苦しい反論。だがこうやって普段ほとんど接する機会のない嫁樣方と意見を交わせたのは、(「まっち=旦那を遊びに連れ出す悪人」という間違ったイメージ(笑)を払拭する等)相互理解を深めるいいチャンスになったと思う。

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開会式で選手宣誓を終えたダニエルカールさんに一緒に写真に写って欲しいと頼むと、「この(ちりとりの)オールで大丈夫なのかい?」とTVと同じ山形なまりで気さくに話し掛けてくれる。『試運転で問題無いことを確認しました!』と応えるも(会う人、会う人にオールの強度不足を指摘されるので)不安になってくる。

やがて、大歓声の中第1レースのスタートが切られ、第3レースの僕らは入水スロープに移動。高校3年間毎日身につけていた稲穂色ネクタイを頭に巻き、円陣声出し。4人が一斉に音頭を取ろうと発声し全く締まらないが、4人のレースに掛ける熱い思いを共有、気合いは入った。

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第2レースのスタートが切られると、スロープを下りいよいよ進水。数日前の豪雨で増水した川は流れが速く、いかだが分解してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしながら対岸まで張られたロープを辿り定位置に並ぶ。我らが「E高自転車愛好会ダンクラーズ」の解説「高校を卒業して22年、四十路(よそじ)を過ぎて再会した僕ら同期仲間がかつての堅い結束や信頼関係を取り戻すには、昔話に花を咲かせるのではなく、新しい足跡を刻むのが良さそうだと当いかだレースへの参加を決めました。各々がこの22年間に培った知恵や技術を持ち寄り、皆で1つのゴールへ向かい力を結集、高校文化祭の時に感じたようなワクワク感を共有するうちにバラバラだった心はこのロープで結ばれたタイヤチューブのようにひとつになりました。2012年7月15日、大人になった僕らは狛江に集結、再び連帯し新たな1歩を踏み出します。」がアナウンスされるのを聞き、ピストルの合図でレーススタート!

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『おっ、思っていたよりいい感じじゃん!』
僕らのタイヤチューブいかだは他のいかだより浮力が強くあまり漕がなくとも川の流れに乗って進めるメリットがある反面、流れの強弱ですぐに横を向いてしまう。そのため流れの弱い側の2人が必死で漕がねばならぬ一方で、強い側の2人はいかだが回らない程度に休み休み漕ぐしかない。手持ち無沙汰となり川岸を歩きながら声援をくれる即席応援団に大袈裟に手を振ってアピールしていると、「パパ、サボるな!ちゃんと漕げ!」とそうちゃんの厳しい叫び声(笑)。

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「なんだよ、これじゃあすぐゴールに着いちゃうなぁ」と呑気に話していたのも束の間、支流から本流に入ると川の流れがなくなりスピードが落ちる。多摩水道橋の上から「いっちに、いっちに」と掛け声をかけてくれる応援団に合わせてオールを漕ぐも、水面に浮かぶ木の葉のような僕らは次第に強くなる向かい風にあおられ、なかなか前に進まない。オールを漕ぐ手を休めると押し戻されてしまう状況に地団駄を踏んでいると、4人の中で最も負けず嫌いの後席左舷のテルが川に飛び込みいかだを押しながら川底を歩き出した。

「テル、ススムよ!オール漕ぐの止めても後ろに流されずにいい感じ!」

後席右舷のゴッチャンも川に飛び込みダブルエンジンでスピードアップ。時折ゴッチャンが川底の凹みに嵌り首まで水に浸かっては「ヤベッ、ウグッ」と変な声を上げるので浅瀬に移動し、4人で交替しながら川底を歩き、地道にゴールまでの距離を縮めていく。

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小田急線の橋をくぐるとTVカメラや大勢の観客の目が気になりだし川底歩行を止めて4人で乗船、大会11連覇を狙うチーム ラフティー等、縦長いかだに桁違いのスピードで抜かれつつ必死にちりとりオールで水をかく。ゴールが近づくと、我らが応援団の表情が次第に見え、これまでいかだレース参戦にいい顔をしていなかったゆっち(妻)が、「E高ファイト!」と声を張り上げてくれているのに胸が熱くなる。4人で最後の力を振り絞り掛け声をかけながらゴールイン。 「1万円以下の予算で完走」という目標達成!

「終わったぁ!応援してくれたみんなどうもありがとう!」
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千川湯けむりの里で汗や泥を洗い流してから閉会式。 僕ら「E高自転車愛好会ダンクラーズ」の公式タイムは42分33秒。参加78チーム 中61位の順位、まあこんなもんだろう。サイゼリアで互いの健闘を称え合いながら大量の参加賞を山分けして 夕方帰宅。ゴッチャン、なっち、そうちゃんで裏山に竹を捨て、1年越しで挑戦したいかだレースは終わりを告げた。

今回のいかだプロジェクトは、家族と一緒に楽しめたのがとても良かった。この家族参加型という点こそ『四十路を過ぎた僕らの新たな1歩』だったのかもしれない。

【狛江古代カップ2012 成績】
チーム名/メンバー: 海老名高校自転車愛好会/テル、ジョー、ごっち、まっち
順位/参加台数  : 一般クラス61位/78艇 
タイム/受賞   :  42分33秒/なし 

(翌日の読売新聞多摩版(右上に僕らの勇姿)

1. 2012年いかだレース編 完】

 

【 2. 2013年いかだレースに続く 】