子供の頃の夢を大人の財力で実現?
『ここらでこの生活にブレーキをかけねば取り返しがつかなくなりそうだ。』
学生時代の未熟な自分から逃れ、責任感のある大人になることを目指してきたが、この弊害として昔の自分が備えていた数少ない優れた点 「何事にも興味を持ち、思い込んだら周りは気にせず自信を持って一直線に行動してた少年の心」を失いつつあるようだ。そんなことを考えるうちに、高校の頃のようにまた自転車に乗ってみたくなった。
『今こそバックトゥーザ自転車だ!』
(脳裏にヒューイルイスのパワーオブラブ(バックトゥーザフューチャーのテーマソング)が流れるのを感じながら ) 書店に駆け込み自転車雑誌を購入する。自転車は、家族で楽しめ、体力増進に繋がり、燃料代もかからず、老後まで続けられると良い事ずくめで胸を躍らせる。
しかし1つ大きな問題が、、、。
『自転車って結構いい値段するぞ!こんな大金どこから捻出するんだ?』
『そろそろ潮時かもしれない、、、。』
大学も職場もオートバイで通えることを重視して選び、雨でも雪でも バス・電車には乗らず、頑なにオートバイ通勤にこだわり続けてきたが、なっち、そうちゃんが毎春進級する毎に新たなクラスで世界を拡げているのを見ていると、会社員15年生の自分も新たに何かを始めたくなった。
今のこの厳しい状況を「オートバイ通勤を卒業して自転車ライフを始められるチャンス!」前向きに捉え、1歩踏み出してみることにした。
重い腰を上げ、レットバロン町田店に行き、99年式CBR600Fを買い取り査定してもらう。走行距離7万キロのため高い値は付かないとは思っていたが、提示された査定金額は予想を大きく下回るまさかの0円。 半年前に車検を通したばかりで状態は良いはずなのに0円は無いだろうと、今度はアップガレージつきみ野店で再度査定してもらうが、今度もほとんど価値が無いと見なされ2万円。
『これじゃあ、自転車買えないじゃん!』
シートの破れやカウルの傷を補修、外せる部品は全て外して洗浄。自転車ライフを夢見て魂と気合で磨き上げ、ケーユー相模原店に持ち込み査定してもらうと、提示された金額は驚きの25万!
満足できる金額ではあるが、いざ実際にこのバイクを手放すとなると「最後に高速を飛ばしたい」とか「次の車検まで乗ってから売りたい」等と色々な思いが込み上げてくる。決断をくだせずにいると店員が「今決めてくれるならさらに2万円を上乗せしてあげる」と言ってくれた。バンザイダート監督の「人生回転寿司理論」を思い出し、CBRとの生活に終止符を打つことを決めた。
帰り際、別れの悲しさに堪えていると、意外にもなっちがCBRにしがみ付きながら、
『パパの大事なバイク売っちゃダメ!』
と大粒の涙を流して泣きだした。そのあまりの悲しみように自分の悲しさを忘れ、「新しい誰かにたくさん乗ってもらう方がCBRも幸せなんだよ。」 と何故かいちばん悲しいはずのまっちがなっちをなだめていた。
『CBR君、君との別れは無駄にはしない。身を退いてくれた(?)君のためにも次の自転車ライフは必ずや充実したものにしてやるぜ!』
「人生のステージによって変わるものはあるけど、変わらない気持ちがある。」
という彼の紹介メールに心を動かされ読んでみることにした。
この小説には、お調子者の主人公昇平と努力家で近所に住む草太が幼児期の自転車事故をきっかけに出会い、自転車旅行をしたり高校に自転車部を設立したり しながら少年・青年・父へと成長する様子が描かれている。
ストーリー的には盛り上がりに欠ける感もあるが、自分と同じ71年生まれの著者、竹内真氏が自身の体験を基に描いたであろう物語の背景は、まさに我ら団塊ジュニア世代が体感してきたもので、自然と過去へと引き戻されていくようだった。
読み進めるうちに、昇平と草太が自分とテルに、そして他の登場人物も旧友達へと重なって感じられ、読み終えてしばらくは昔にタイムスリップしたような気持ちになっていた。
そして、この本を読んだ何よりの収穫が、自転車を公共の交通機関で運ぶ『輪行』という手法を知ったことだ。
自転車は車輪を取り外して袋に入れれば新幹線をはじめ、ほとんどの鉄道に手荷物として無料で持ち込めるそうで、小説の輪行のシーンを読むうちに自然と顔がにやけてきた。
『僕が求めていたのはコレだよコレ!』
輪行には、車体の折り畳める「折り畳み自転車」と、車重が軽く分解が容易な「ロードレーサー」が適しているようだが、輪行性能と走行性能を併せ持った「ロードレーサー」を買うことに決めた。
参考:コンポーネントとは
3.車体重量10キロ以下のマシン
車体重量に最も影響するフレームの材質は、技術の進歩と共に クロモリ(クロムモリブデン鋼)から、アルミニウム合金、そしてカーボンへと進化し、年々軽量化が進んでいるが、軽さと自転車の値段はほぼ比例関係にあり、軽さに拘ると幾らお金があっても足りなくなってしまう。
輪行時の持ち運びの容易さ等、自分にとって必要な軽さと出せる金額のバランスを考え、車体重量10キロ以下のマシンを選ぶことにした。
この3つの条件を満たすロードレーサーを探し、最終的に候補に残ったのが、GIANTのOCR3[税込定価78750円]と、サガミサイクルオリジナルのCAMPIONE(Torento)[税込定価81900円]の2車種であった。
(OCR3) | (CAMPIONE) |
この2車種を比べると、OCR3の方がハンドル位置が高く乗車姿勢が楽で、タイヤ幅が26ミリと太く(荷台取付穴やハンドル上部の補助ブレーキ付、24段変速、車重約10キロ)ツーリング向きなのに対し、CAMPIONEは前傾がキツく、タイヤ幅23ミリ(前後ディレイラー・ブレーキ・レバーの全てがSORA、シマノ製ホイールWH-R500で19段変速、車重約9キロ)とスプリント向きだ。
使い道からするとどう考えてもOCR3の方が合っているのだが、ぼやけたカラーリングがどうしても好きになれない。
対してCAMPIONEは前傾がキツく乗り心地は悪いが、カラーリングや雰囲気は自分の好みに合っている。
『どっちにしよう?』
趣味の買い物なので、単純に好きだと思ったCAMPIONEを買うことにした。
好きならばキツい前傾も乗りこなす喜びとなるだろうし、ツーリングに向かない車体はカスタムの喜びを与えてくれるものとなるだろう。
小径車:モトクロスの世界でのミニモトブームのように、ロードレーサーの世界にも近年「小径車(ミニベロ)」と呼ばれる小径ホイール車のブームがあるようだ。 アレックスモールトンに代表される高性能の小径車は見かけによらず高性能で、乗る人の実力次第ではロードレーサーを凌ぐ走りができ、しかも輪行に向いているため、「これこそ自分向き!」と色々調べてみるも、ロードレーサーと同等またはそれ以上の値段に購入をあきらめた。
気楽に乗れる小径車はフルサイズのTrentoを完全に乗りこなしてからでも遅くは無さそうなので、老後の楽しみにでも取っておこう。
「つまり俺達で自転車サークルを作るって訳だね。」
自転車少年記を勧めてくれた彼だけに話は早く、会って詳しく話すことにした。
高校時代の自分は勉強にもスポーツにも情熱を注げずにウジウジと後ろ向きな日々を送ってしまった。「せめて部活でもやっていればもっと健全で充実した高校生活が送れたのに、、、」という敗北感にも似た後悔の気持ちは、卒業してかなりの年月が過ぎたというのに、胸の奥に深い根を生やし続けている。
「いつまでこんな気持ちを持ち続けねばならないのだろうか、、、」
後悔ばかりしていても何も生まれない。必要なのは過去をどう未来に生かすかだ。自分と似た高校生活を送っていたテルに『この後悔を叩き潰せるような自転車サークルを作りたい!』と提案すると、
「時を戻して高校時代をやり直すことはできないけど、当時の仲間と充実した自転車ライフを送ればこの深い根を断ち切れるかもしれないね。」
と自転車サークル発足に快く賛同してくれ、mixi(Social Networking Service)のコミュニティー機能を使い、高校同期の自転車サークルを立ち上げる運びとなった。
果たして僕たちの後悔が消える日は訪れるのだろうか?
数日後、会社帰りに納車されたCAMPIONEを取りに行く。店から家までの約25キロの道のりを自走するつもりが、本降りの雨が振り出し断念。輪行袋を購入し、輪行で自宅を目指すことにした。
店員に輪行袋への自転車の入れ方を教わり、肩から輪行袋を下げて店を後にする。 輪行袋の重さはあまり気にならないが、サイズが考えていたよりも大きく、相鉄線・小田急線は混んだ車両を避け先頭の空いた車両に乗り自宅最寄り駅に到着。そして最後はバス。路線バスへの自転車の持ち込みは混雑時には断られることがあるそうでちょっと不安だだったが何事も無く乗車でき、無事輪行で家に到着した。
玄関で自転車を組み上げ、オプション部品を取り付ける。
期待と不安の入り交じった「何かが始まる予感」が久々に体内を駆け巡るのを感じた。
蛇足:購入2週間後にサガミサイクルのホームページをのぞくと なんとCAMPIONE(Torento)の定価が14700円値上げされていた。なんか得した気分♪
【 3.多摩川サイクリング編 に続く 】